手術麻酔
麻酔科について
全身麻酔の場合、手術中の意識はありません。何かを訴えたり、自分で自分の体を守ることもままなりません。麻酔に使用する薬は呼吸、心臓の動き、血圧、体温などに影響します。そこで麻酔科医は近くにいて、危険な状況に陥らないように絶えず気を配っています。例えば、全身麻酔の時には人工呼吸を行い、酸素が十分に体のすみずみまで行き渡るように監視しています。
手術までの麻酔を受ける準備
-
手術前はどんなことに気をつけるの?
- 禁煙をしましょう。(喫煙により肺の合併症が起こりやすくなります。)
- 深呼吸の練習をしましょう。
- 痰を出す練習をしましょう。(手術後は痰が多くなります。)
- できれば、ひげを剃りましょう。(呼吸の管を固定するためです。)
- 爪を切りましょう。(マニキュアも落としてきて下さい。)
- 常用薬を主治医に教えましょう。
-
麻酔科医の術前回診
手術の前日夕方(月曜日手術の場合は金曜日)に麻酔科医が病室を訪れ、カルテの記載事項から患者さんの情報を収集します。その後診察しお話を伺います。
緊急手術でない限り、風邪をひいている場合、ぜんそく発作が見られる場合、糖尿病や高血圧がコントロールされていない場合等は安全の為、手術を延期する場合があります。 -
手術前の絶飲食
安全に麻酔を行うためには、胃の中の食べ物を空にしておくことが大切です。麻酔の時、胃の入り口の力が抜けて吐いてしまうことがあります。
嘔吐あるいは胃から逆流した食べ物が肺のほうへ入り、窒息や重症の肺炎が起こる危険性が高くなります。決められた時間以降は食べ物や水分を口にしないでください。 -
手術室に向かう前に
手術中の安全確保のため、身につけている物はすべて取り外して手術室へ来ていただきます。入れ歯、めがね、コンタクトレンズ、指輪、ブレスレット、ピアス、 ネックレス、時計などはすべてはずしてください。
-
当日朝のお薬
普段飲んでいるお薬のうち、必要な物(たとえば高血圧のお薬)は、当日の朝も内服することがあります。なるべく少量の水で内服して下さい。
-
麻酔前投薬
手術当日、不安感を和らげるため、あるいは手術の準備のために、注射もしくはお薬が病室で投与されることがあります。
-
手術室への移動
病棟の看護師さんの付き添いで、車付きの搬送用ベッド(ストレッチャー)もしくは車椅子で手術室まで移動します。希望により徒歩で手術室内に行くこともあります。
全身麻酔を受けるにあたって
-
全身麻酔について
痛みを感じる部位である中枢神経系(脳)に作用して痛みを感じないようにします。全身麻酔下では痛みや意識がなくなり、手術中の記憶は残りません。
吸入麻酔薬を吸っている限り、または静脈麻酔薬が点滴で投与されている限り眠り続け、止めると目が覚めます。 -
全身麻酔の手順は?
- マスクによる酸素吸入を行います。
- 点滴から麻酔薬が投与されます。(およそ十数秒で眠くなります。)
- 意識がなくなった後、人工呼吸用のチューブを気管に入れます。
- 手術が行われます。
- 麻酔からの覚醒(場合によっては麻酔を覚まさずに病棟へ戻ることもあります。)
- 手術が終了して麻酔薬の投与を止めると、麻酔から覚めてきます。
指示に従えるようになり、呼吸がしっかりしていればチューブを抜きます。 - マスクを使って酸素吸入、病棟へ戻ります。
-
合併症について
- 歯牙損傷
- 嗄声、咽頭痛
- 吐き気、嘔吐
- 手術後の寒気、ふるえ
- 手術中の体位によるこり、痛み
- アレルギー反応
- 悪性高熱症
区域麻酔を受けるにあたって
局所麻酔薬を使って神経を一時的に麻痺させます。
その結果、手術を受ける部位を含む体の一部がしびれ、痛み刺激を感じなくなったり、動かなくなったりします。
意識は保たれたままです。硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔、伝達麻酔(末梢神経ブロック)があります。
脊髄くも膜下麻酔について
-
脊髄くも膜下麻酔について
腰から細い針を、脊髄を取り囲む背骨・硬い膜を通過させ、くも膜下腔に進めます。
そこから局所麻酔薬を注入して、痛みを取る麻酔法です。
硬膜外麻酔に比べて麻酔効果が確実で、知覚麻痺、運動麻痺がより強く現れます。チューブの留置は通常行いません。 -
どうやって行われるの?
- 横向きになります。
- 背中を消毒します。
- 皮膚を麻酔します。
- くも膜下腔に針を進め、局所麻酔を注入します。(まもなく足が温かくなり痺れてきます。)
- 仰向けにもどります。(足が思うように動かなくなります。)
- 手術部位の麻酔効果を確認します。
- ご希望により入眠していただきます。
- 手術終了したら病室へ帰ります。(下半身のしびれは数時間かけて徐々に取れてきます。)
-
合併症について
- 血圧低下と吐き気
- 頭痛
- 神経障害
- 髄膜刺激症状
硬膜外麻酔について
-
硬膜外麻酔について
脊髄は体の隅々までのびている神経と脳の中継地点であり、外からの衝撃を和らげるため水(髄液)に浮いた形になっています。
更にその周囲を硬い膜と背骨が取り囲むように覆い、脊髄はしっかり守られています。
硬膜外麻酔は脊髄を取り囲む硬い膜と背骨の間の狭い空間(硬膜外腔)に局所麻酔薬など痛み止めの薬を注入し、手術中・手術後の痛みをとる麻酔法です。
多くの場合、直径1mmにも満たない柔らかいチューブを留置して、持続して痛み止めの薬を注入できるようにしています。
全身麻酔としばしば併用されます。その場合、全身麻酔前の意識がある時に行います。 -
硬膜外麻酔はどうやって行われるの?
- 横向きになります。(膝を抱え込むようにして、えびの様に背中を丸めます。)
- 背中を消毒します。
- 皮膚を麻酔します。
- 硬膜外腔に針を進め細いチューブを入れます。
- 仰向けにもどります。
-
合併症について
- 血圧低下と吐き気
- 頭痛
- 下肢の知覚異常
- 局所麻酔中毒
- 麻薬性鎮痛薬の併用による副作用
- 感染
- 下肢の運動麻痺
- チューブの断裂
伝達麻酔(末梢神経ブロック)について
-
伝達麻酔(末梢神経ブロック)について
末梢神経(脳や脊髄などの中枢神経から分かれて、全身に分布する神経)の走行に沿って、適切な部位に局所麻酔薬を注入し、痛みを和らげます。脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔に比べ、効果の範囲は限られます。
-
伝達麻酔(末梢神経ブロック)はどうやって行われるの?
伝達麻酔(末梢神経ブロック)には多くのアプローチ方法があります。手術の創部に合わせ、必要な方法を選択します。多くは超音波装置を用いて、超音波下に神経を同定し、細い針を進めていきます。
-
合併症について
- 局所麻酔中毒
- アレルギー
- 神経障害
- 出血